普段の食事に野菜は欠かせないということは,誰もが口にすることですが,ビタミンや食物繊維ばかりが野菜の重要な成分なのではありません。野菜を食べることによって,知らず知らず病気を予防したり健康を維持したりするのに重要な成分を私たちは摂取しています。そうした成分は,フィトケミカルと呼ばれています。フィトケミカルのはたらきとして,抗酸化作用やがんの危険性を減少させることに注目が集まっていますが,まだまだ未知のはたらきも多く存在しています。

 私たちは,線維芽細胞や骨芽細胞の産生するコラーゲンを増加させるはたらきをもつフィトケミカルと,線維芽細胞が産生する神経成長因子を増加させるはたらきをもつフィトケミカルについて研究を進めています。

 コラーゲンは,多細胞生物の細胞外マトリクスの主成分で,真皮や軟骨などを構成する繊維状のタンパク質です。ヒトのコラーゲンタンパク質は30種類以上が知られていますが,多くの型のコラーゲンの構造は,ペプチド鎖が3本集まり,三つ編みを編むようにお互いに巻き付いてらせん構造を形成しています。このような構造ゆえに,結合組織においては力学的な強度や弾力性に大きな影響を与えています。

 最近になって,コラーゲンの新しいはたらきとして,それに接する細胞に対して,増殖や分化の重要なシグナルを与える役割を担う,いわば情報伝達のはたらきをもっていることが分かってきました。

 このところ巷では,コラーゲンを多く含む健康食品が人気となっていますが,タンパク質の一種であるコラーゲンを経口摂取しても,コラーゲンとしてそのまま吸収されることはできません。ましてや,経口摂取されたコラーゲンが,直接的に皮膚の張りを保ったり,直接的に関節の痛みを和らげたりすることはありません。

 コラーゲンが健康を維持する上で重要な物質であることに疑う余地はありません。また,年齢を重ねる毎に体の中のコラーゲン(ヒトの体内に存在する全タンパク質のほぼ30%はコラーゲンです)の量が減っていくことも事実です。ならば,できるだけ体内のコラーゲンを生産する量を減らさないような食事をすることが重要であるはずです。

 そこで私たちは,野菜に含まれるコラーゲンの生産を促進させるフィトケミカルを探しています。具体的には,マウス線維芽細胞のL-M細胞を用いて,野菜から抽出した成分を培地に添加した際に,細胞外マトリクスに産生されるコラーゲンの量を,シリウスレッドという色素を用いて測定し,もっともコラーゲンの量を増加させる抽出成分を分析しています。

これまでに・・・
・日本生まれの「プチヴェール」という野菜から抽出される成分の中に,線維芽細胞の産生するコラーゲンを濃度依存的に増加させる物質が存在することを報告しました。(日本農芸化学会2008年度大会口頭発表)